会場:ステラボール
2024年9月22日 1階F列センター
2024年9月26日 1階N列下手
手塚治虫の同名のマンガをミュージカル化したもの、原作は未読、あえて読まずにそのまま観劇しました。未読でもまったく大丈夫ですよ。原作有り作品だと知らなくても大丈夫かとか心配する声を以前から目にしますが、原作を知らなきゃ判らない舞台や映画は駄作ですから。
そもそもオリジナル作品だったら、まったく知らない状態で観ますよね。そういうことですよ。
さて、主役の七色いんこ(代役専門の舞台俳優でじつは泥棒)は我らがかいちゃんこと七海ひろきです。最近ではすっかり2.5次元俳優イケメン枠ですね。宝塚男役出身の役者さんには同枠に入る資格を持つ方がたくさんいるのですが、是非とも卒業後もリアル男子よりかっこいい姿を公開してほしいです。
警部役の高木トモヒロさんは刀剣乱舞に歴史上の人物として登場しており、とってもすてきな役者さん。現代物でもやっぱりステキでした。
他にもですね、芸達者なベテランさんのアドリブを含めたお芝居と若手役者さんの勢いある演技やダンスでノンストップの2時間10分を楽しませてもらいました。
手塚作品というと描かれる時代の社会問題が根底にありますが、これもやはりそうです。
いんこの父は一代で財をなした人物で会社を大きくしていく段階でそれなりに後ろめたいことをやっている。政治家に賄賂を渡して便宜を図らせる程度のことは当たり前、へたすれば人の生死に関わることも。
またいんこはアメリカ留学時代(実際には逃亡して学校には行っていない)に行き倒れ寸前の所を助けてくれたアメリカ人役者(トビー)に弟子入りし、そこでエンターテイメントを学ぶのですがその人はベトナム戦争に兵士として参加している過去を持つ。当然、ベトナム人殺害に加わっており、帰国後に兵器商人が何食わぬ顔で大もうけしていることを知るとエンターテイメントの中でそれを断罪するという手段に出る。それにより兵器商人はベトナム人組織に殺害されるが、トビーも狙われ、ついには殺害される。
帰国したいんこはトビーと同じ手法で父を断罪することを誓う。
といった風にじつは社会派なストーリーになっているのでした。
かいちゃん演じるいんこは後半は自分の幼少期からアメリカ時代までを語るストーリーテラーのような役割を果たします。幸せではなかった時代の自分を見つめるいんこは辛そうなときもあるし、優しいまなざしで見守っているときもありました。セリフはないときの影芝居をしているかいちゃんはとても見応えがあります。
父の会社が作り上げた人型AIロボットの顔は息子の面影を残しているという件に、父親の複雑な思いを感じます。早世した妻(いんこの母)があんなに早く亡くならなければ、もう少し違ったのでしょうね。鍬形は貧しい時代を支えてくれた妻を幸せにしたいという一心だったのでしょう。でも彼女を失って、違う方向にベクトルが向いてしまったと思いたい。
宝塚で手塚作品といったら「ブラック・ジャック」ですが、「七色いんこ」もやりやすい作品ではないでしょか。ヒーローとヒロインとはっきりした悪役。本公演でやるには役が足りないので、特別公演とかでやらないかな~と思ったりして。